第47回 お年寄りの肺炎は要注意 (平成24年12月2日)
冬到来ですね。本当に寒くなりましたが、皆さん風邪などひいてませんか?
先日、スクワット体操を毎日150回も行われていたことで有名なあの女優の森光子さんが92歳で亡くなられたという悲しいニュースを聞きました。
死因は肺炎だったそうです。本当に残念でなりません。
今回は、お年寄りにとって怖いそんな「肺炎」について、皆さんと一緒に勉強したいと思います。
1.我が国の死因統計で「肺炎」が脳血管疾患を上回り第3位へ!
平成23年の我が国の死亡者数を死因順位別に見ると、第1位は「がん(肺がんや大腸がんなど)」で35万7185人(死亡者数全体の28.3%)、
第2位は「心臓病(狭心症や心筋梗塞など)」19万4761人(15.4%)、第3位は「肺炎」12万4652人(9.9%)、第4位は「脳血管疾患(脳出血や脳梗塞など)」で、
12万3784人(9.8%)となっています。
「肺炎」は昭和50年に「不慮の事故」に代わって第4位となり、上昇と下降を繰り返しながら上昇傾向を示してきました。
平成23年は「脳血管疾患」に代わり第3位となり、平成23年の我が国全体の死亡者に占める割合は9.9%となっています。
ご高齢になるにつれ、肺炎で亡くなる方が増加します。「肺炎はお年寄りの友人」という言葉がありますが、それを裏づける結果となっています。
2.お年寄りにとって致命的な病気、それは「肺炎」
日本では1年間に12万人以上の人が肺炎で亡くなっており、肺炎はがん、心臓病に次いで日本人の死因の第3位となっています。
その背景にあるのが急速に進む人口の高齢化です。肺炎による死亡率は年齢と共に高くなっており、肺炎による死亡者の実に95%を65歳以上のお年寄りが占めています。
① 肺炎はどうして起こるの?
肺炎の原因には、マイコプラズマやクラミジア、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの他、数多くの病原体が含まれますが、最も多いのは「肺炎球菌」という細菌です。ある調査では、病院の外で発生した肺炎(市中肺炎)のうち、約3割が肺炎球菌による肺炎だと報告しています。
肺炎は、これらの病原体の感染によって単独でも発症しますが、風邪やインフルエンザに引き続いて発症するケースがよく見られます。特にインフルエンザに感染すると、のどや気道の粘膜が傷つき、肺炎の原因菌が侵入しやすくなります。
「インフルエンザ流行時に発生した肺炎の病原菌を調べた調査では、肺炎球菌の割合が一層高くなっており55%を占めている。インフルエンザ流行時には、肺炎球菌の感染予防が特に重要だ。」と専門家は呼びかけています。
② 風邪と肺炎はどこが違うの?
一般的な肺炎の特徴は、「38度以上の高熱」、「激しいせきや濃い色のたん」など、風邪よりも重い症状になりがちで、「息切れ」や「呼吸時の胸痛」といった症状もよく見られます。
また、肺炎によく見られる症状のうち、「発熱」、「悪寒(おかん)」、「たんを伴うせき」、「倦怠(けんたい)感」などは通常の風邪でも見られるため、風邪と間違えて見逃されるケースも少なくありません。
③ お年寄りの肺炎の特徴は?
現在、肺炎はお年寄りの直接の死亡原因のおよそ3分の1を占めている恐ろしい病気です。
お年寄りの肺炎の特徴は、「無症状に近い例が多いこと」、「急速に進行しやすいこと」、「典型的な症状を示しにくいこと」などがあげられます。
専門家は、「お年寄りは体力や免疫の働きが低下しているため若い人より肺炎に感染しやすいが、高熱が出ないなどの典型的な症状が出にくいことが多く、発見が遅れて重症化しやすいのがやっかいだ。」と話します。さらに、お年寄りは糖尿病や心臓病、慢性呼吸器疾患などの合併症を持っていることが多く、これも重症化の原因となっています。
「風邪のような症状が3~4日経っても治まらない。あるいは悪化した」、「呼吸の数が増えた」、「息切れや胸痛」、「ぐったりして食欲がない」などの症状が見られたら、肺炎が疑われます。すぐに近くの呼吸器科や主治医を受診しましょう。
④ 誤嚥(ごえん)性肺炎に要注意!
お年寄りがもう一つ気をつけたい肺炎は「誤嚥性肺炎」です。食事をするとき、本来なら食道へ送られる食べ物や唾液が、誤って気管に入ってしまうことがあり、これを誤嚥と言います。食べ物や唾液に混じって細菌などが肺まで到達し、炎症を起こしたのが誤嚥性肺炎です。
食べ物だけでなく、口の中にすみついている細菌や異物を誤嚥することでも肺炎を引き起こすことがあります。歯周病や入れ歯の手入れ不足なども口の中の雑菌を繁殖させ、誤嚥性肺炎の原因になります。
口の中の細菌を増やさないためにも、食後は口の中をゆすいだり、歯磨きなどをしっかりと行う習慣を身につけましょう。
【 東洋医学コーナー 】 東洋医学では、肺炎を引き起こす細菌などによる怖い感染症のことを癘気(れいき)と呼んでいます。
癘気は、暑さや冷え、そして湿り気などと同じく、身体の外から体内に侵入してくる邪気の一つです。
元気が充実していれば、そんな病にかからないというのが東洋医学の考え方です。でも、その邪気の勢いが非常に強かったり、自分の元気が低下していると病にかかってしまいます。
バランスのとれた栄養(水穀の気)をしっかり取りましょう。そして、新鮮できれいな空気中の酸素(天空の気)を取り込むような、つまり朝早く起きて、さわやかな空気を胸いっぱい吸い込みながらラジオ体操をするなどして、自分の元気を低下させないような、そんなライフスタイルを心がけましょう。
3.ワクチン接種率、10%台に留まる お年寄りの肺炎の3分の1から4分の1は肺炎球菌が原因のため、「’80」年代後半から肺炎球菌ワクチンの接種が始まり、「’09」年以降はインフルエンザワクチンとの同時接種や、5年後の再接種も可能になりました。
予防接種により肺炎の重症化や死亡を減らすと報告されています。
厚生労働省は、「すべてのお年寄りの接種が望ましい」と言ってますが、残念ながら接種率は10%台に留まっています。
その理由として、現在のところ健康保険が適用されておらず、費用が6,000~8,000円と高額なことがあげられています。
しかし、徐々に公費助成をする自治体も増えており、こうした自治体では接種率が高くなっています。
先日、岐阜市の保健所に問い合わせたところ、岐阜市では、3年後あたりから公費助成が行われるのではないかと言ってました。
4.肺炎球菌ワクチン予防接種とは?
お年寄りの肺炎の中で、最も頻度の高い「肺炎球菌」という細菌感染を予防するワクチンです。
接種により、肺炎球菌による肺炎の8割に効果があると言われています。
ただし、肺炎球菌ワクチンは、肺炎のすべてを予防するワクチンではありませんが、接種することによって、重症化防止などの効果が期待されています。
① 免疫効果はどれくらい持続するの?
このワクチンは1回0.5mlを筋肉内又は皮下に注射します。健康な人では少なくとも接種後5年間は効果が持続するとされており、インフルエンザワクチンのように毎年接種する必要はありません。
肺炎球菌に対する免疫ができると、肺炎にかかっても軽い症状ですみます。5年が経過したら、再びワクチン接種を受けることができます。
② 注射による副反応は?
どんなワクチン接種でも副反応はつきものですが、この肺炎球菌ワクチン接種の副反応としては、注射部位の腫れや、痛み、熱感、発赤が5%以上認められると報告されています。
また、筋肉痛、倦怠感、違和感、悪寒、頭痛、発熱なども現れることがあると言われていますが、いずれも軽度で2~3日で消失します。
5.肺炎予防の6カ条① 免疫力をつける生活を!
睡眠は充分に、食事は栄養バランスよく3食きちんと取り、適度な運動をして体力・免疫力を低下させない生活を送ることが大切です。
また、過労を避け、ストレスを減らすことも大切です。
冬場は、身体が冷えて免疫力が低下します。「冷蔵庫の中の飲み物は必ず温めてから飲む」、「普段から腹巻きを着用する」、「外出時はマスクにマフラー、そして手袋などを身につける」など、くれぐれも身体の保温に努めてください。
② 喫煙者は禁煙を!
喫煙は、肺の組織を傷つけて肺炎を起こしやすくし、喫煙による免疫力の低下で一層肺炎の危険性が高まります。
特に、65歳を越えたお年寄りは禁煙に努めましょう。
③ 誤嚥を防ぐ工夫を!
食事は、よい姿勢でゆっくり食べ、意識してしっかり飲み込むようにします。身体を後ろにそらしながら食べると、誤嚥の原因となります。
また、食後はすぐ横になると誤嚥の危険性が高まりますので、食後1時間くらいは横にならないよう、気をつけてください。
④ 口の中を清潔に!
口の中の細菌を増やさないため、食後は口の中をゆすいだり、歯磨きなどをしっかりと行いましょう。
歯磨きの後に歯ブラシで軽く舌をかき出すことも効果的です。
⑤ 持病を治療しましょう!
持病のある人は、きちんと治療を受け、医師の指導をしっかり守りながら、体調管理をしましょう。
⑥ 肺炎球菌ワクチンの予防接種をしましょう!
ワクチン接種には、肺炎球菌による肺炎の重症化を防ぎ、死亡の危険度を下げる効果が確認されています。
日本呼吸器学会では、「65歳以上のお年寄り」、「2~64歳で、慢性心不全、COPDなどの慢性呼吸器疾患、糖尿病、慢性肝疾患などがある方」などに肺炎球菌ワクチン接種を推奨しています。
特に、インフルエンザの季節には、インフルエンザのワクチンとの併用がすすめられます。
6.まとめ 私の母親は、80歳になるのを記念して昨年の2月に肺炎球菌ワクチンの予防接種を済ませました。
特に痛みもなく、気になるような副反応も現れませんでした。
ただ、費用が8,500円と少し高額でした。でも、これで肺炎にかかっても軽く済むかと思うと安心です。
実は私の父親は、今から8年前に肺炎にかかったのが原因で、1年近く入院したあげく81歳でこの世を去っています。
その頃、私はこの予防接種の存在を知りませんでしたので、今から思うと本当に残念でなりません。
多くのお年寄りが、この肺炎球菌ワクチンの予防接種を受けることで、病院に入院することなく、いきいきとした生活をいつまでも送っていただきたいものだと願っています。
先日、インフルエンザの予防接種をしてきました。私の行った医院では、本当にたくさんのお年寄りが順番を待っていらっしゃいました。
インターネットを見ていると、インフルエンザから肺炎を併発されるお年寄りも多いそうです。皆さん、くれぐれも身体の保温に努めて、免疫力を高めてくださいね。
今年1年、たいへんお世話になりました。来年もどうかよろしくお願いします。皆さん、よいお年をお迎えくださいね。