第28回 骨を丈夫に (H22.9.26)
9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いています。皆さん、お変わりありませんか?
秋分の日も過ぎ、そろそろ秋の気配を感じる季節です。秋と言えば「スポーツの秋」や「食欲の秋」が頭に浮かびます。
今回は、そんな運動や食事と関連の深い骨の病気の「骨粗鬆症(こつそそうしょう)」について皆さんと一緒に勉強したいと思います。
1.カルシウムと骨の関係は?
戦後、我が国の食生活は著しく改善され、今では栄養素のほとんどは必要量を満たすようになりました。しかし、唯一カルシウムだけは必要量を満たしていないと言われています。
厚生労働省は、日本人のカルシウムの必要量を1日700㎎と定めています。これはあくまでも最低限であって、骨粗鬆症を予防しようとするなら1日800㎎以上は必要です。また、閉経を迎えた女性は1,000~1,500㎎が必要です。
国民栄養調査によるカルシウムの全国の1日当たりの平均摂取量の年次推移を見ると、昭和21年には253㎎であったのが、その後増加し続け、昭和42年に529㎎と500㎎を越えました。しかし、その後は増加傾向は止まり、平成5年では537㎎とあまり変わっていません。これにより、ここ30年、カルシウム摂取に関しては改善の兆しが見られていないということが分かります。
人間の身体には骨が200数個あると言われています。骨には、タンパク質やリン、マグネシウムなどとともに、たくさんのカルシウム(骨重量の約50%)が含まれています。しかし、骨に含まれるカルシウムなどの量(骨量)は、若い頃をピークに年齢とともに減ってきます。そして、その骨量が減少すると、骨の中の構造が壊れ、骨は非常にもろい状態になり、折れやすくなります。この状態が骨粗鬆症です。
我が国の骨粗鬆症の患者数は、女性が約800万人、男性が約200万人、合計1,000万人と推定されています。女性では、ホルモンのバランスが大きく変化する閉経後に、骨量が急激に減少し、発生頻度は60歳代では約33%、80歳代には60%を超えます。超高齢化社会に伴い、骨粗鬆症の患者数がさらに増加していく傾向にあります。
【東洋医学コーナー】
東洋医学では、骨折を含めた骨の病を腎虚(じんきょ)として捉えています。昔の人は、生命エネルギーの宿る場所を腰にある腎と考えていました。毎日の食事や酸素のおかげで、このエネルギーの消耗を最小限にくい止めていた訳です。しかし、高齢になるとこのエネルギーの消耗が著しくなり、骨の病を含めた様々な症状が出てくるのです。これが腎虚です。
2.骨粗鬆症を起こす原因は?
骨の構成成分であるカルシウムは、食事によって摂取され、小腸で吸収されて血液中に入り、骨に運ばれ骨が作られます。
そのカルシウムなどの量が減少する理由には、次のようなものが考えられます。
① 加齢
歳をとるとともに、筋肉が痩せて骨を動かすことが減ってきたり、身体の中のホルモンが変化したり、小腸で栄養素の吸収能力が低下したりして、骨量が減少してきます。
② 女性・閉経
女性の最大骨量は男性より低く、また閉経後の数年間は急激に骨量が減少します。そのため、女性は男性より骨粗鬆症になる危険性が高く、より若い年齢から骨粗鬆症が見られます。
③ 遺伝
家族に骨粗鬆症にかかった人がいる場合、骨粗鬆症になる可能性が高くなります。
④ カルシウム不足
ご高齢の方では、淡泊なものを好み、食事量も減ってくることから、カルシウムの摂取量が減りがちです。
⑤ ビタミンD不足
小腸におけるカルシウムの吸収には、食物中のビタミンDの作用が必要なため、ビタミンDが不足するとカルシウムを吸収することができなくなります。
⑥ 日光浴不足
ビタミンDは、小腸でのカルシウムの吸収に不可欠なビタミンです。そして、皮膚の中で日光の紫外線に当たって、はじめて、その役を果すことができるようになります。そのため、日光に当たらないとうまくカルシウムを吸収することができません。
⑦ 運動不足
筋肉だけでなく、骨の強さを保つためにも運動は非常に大切です。運動といっても、スポーツとは限らず、日常生活の自然な動作や生活様式も、骨や筋肉の維持に影響します。
⑧ 喫煙、飲酒、カフェイン
喫煙は胃腸の働きを悪くしてカルシウムの吸収を悪くし、過量のアルコールはカルシウムの吸収を減らして、排泄を増やします。また、過量のカフェインは尿へのカルシウムの排泄を増やします。
⑨ 食塩、糖分
食塩や糖分を摂り過ぎると、カルシウムの尿への排泄が増加し、身体の中のカルシウムが不足することになります。特に、白砂糖はカルシウムの吸収を阻害する代表的な食品だと言われています。
⑩ ストレス
過度のストレスは、小腸におけるカルシウムの吸収を妨げます。
⑪ 薬剤
特にステロイドを長期で内服している方に、著明な骨量減少をきたすことが知られています。
3.骨粗鬆症の症状は?
骨粗鬆症は自覚症状の少ない病気です。その中で代表的な症状としては、骨の変形と骨折、そしてそれに伴う痛みなどが中心になります。
骨粗鬆症による骨折のほとんどは脊柱(背骨)、大腿骨(太ももの骨)、あるいは、橈骨(手首から肘にかけての親指側の細い骨)に起こります。
① 脊柱(せきちゅう)の骨折
重い物を持ったりして、普段より少し余計な力が身体に加わっただけで、脊柱を構成している一つ一つの骨(椎骨(ついこつ))が変形します。また、しりもちをつくことで、脊中は上下から圧迫され、全体が押しつぶされた状態となります。これを圧迫骨折と呼びます。
椎骨の変形が徐々に生じると、脊中やその両側の筋肉が次第に痛むようになります。痛みは、寝返りや起床、歩行開始時など動作を始めるときに生じます。
② 大腿骨(だいたいこつ)の骨折
男女ともに高齢になると、転倒などにより大腿骨の骨折を起こしやすくなります。特に、大腿骨の付け根に近い部分が細くなっているため、骨折を起こしやすく、大腿骨頚部骨折と呼ばれます。
大腿骨頚部の骨折を起こすと、入院してしばらく動けなくなり、そのため運動不足などから、さらに骨量が減少するという悪循環に陥り、ご高齢の方では「寝たきり」の原因になることが少なくありません。
③ 橈骨(橈骨)の骨折
転んで手をついた際に起こる骨折です。橈骨の他、腕の付け根の骨(上腕骨頚部)を骨折することもあります。
4.骨粗鬆症を予防するためには? ~ 3つのポイント
① カルシウムを含む食品をたくさん食べましょう
カルシウムは、便や尿として毎日少しずつ排泄されているため、食事で補っていなければなりません。カルシウムを食品から摂取するなら牛乳、チーズ、ヨーグルト等の乳製品、骨ごと食べられる小魚類、小松菜等の緑黄色野菜や海草類などに多く含まれています。
カルシウムは体に吸収されにくいミネラルなので、これらの食品を積極的に摂取しましょう。ただし、カルシウムは食品から摂取する分には問題ないですが、サプリメントから摂取する場合は過剰摂取に注意してください。(上限2,300㎎)
【カルシウムの多い食品(100g中)】
以下、食品の種類・カルシウム量の順に記します。
木綿豆腐:120㎎
厚揚げ:240㎎
凍り豆腐:660㎎
小松菜:170㎎
かぶの葉:250㎎
大根の葉:260㎎
牛乳(200ml):110㎎
スキムミルク:1100㎎
ヨーグルト:120㎎
めざし(焼き):320㎎
ししゃも(焼き):360㎎
桜えび(素干し):2,000㎎
しらす干し:970㎎
ひじき:1,400㎎
ごま:1,200㎎
② 小腸でのカルシウムの吸収を良くしましょう
a.ビタミンDを摂取する
ビタミンDはカツオ、マグロ、アジ、レバー、バター、たまご、椎茸などに多く含まれています。
b.日光に当たる
食物に含まれるビタミンDは、そのままでは効果が発揮されません。実際に役立つビタミンDになるには、一度皮下の脂肪組織に蓄えられて、日光の紫外線の作用を受ける必要があります。
午前10時から午後3時の日光で、少なくとも週に2回、5分から30分の間、日焼け止めクリームなしで、顔、手足、背中への日光浴で、充分な量のビタミンDが体内で合成されると言われています。
c.タバコを吸わない
タバコの持つ直接作用(ニコチンやカドミウム等による骨細胞破壊)と間接作用(小腸からの吸収抑制、ビタミンD不足、ホルモンへの影響など)が問題になっています。
d.アルコールを取り過ぎない
アルコールの飲み過ぎは、カルシウムの吸収を低下させます。
e.定期的に運動をしましょう
運動とは、骨に力(体重)がかかるような運動、つまり筋力トレーニングが骨量を良く増加させます。また、ウォーキングも下半身の骨量を増加させるのに適した運動だと言えます。
ご高齢の方や、膝・股関節に変形が見られる方、そして他の病気を治療中の方は、必ず主治医の先生と相談の上で行うようにしましょう。
③ カルシウムが尿に過剰に排泄されないようにしましょう
a.食塩や白砂糖などを摂り過ぎない。
b.カフェイン(コーヒーや紅茶など)を摂り過ぎない。
c.アルコールを飲み過ぎない。
5.まとめ
骨折を防ぐための日常生活上の工夫や注意点を以下にまとめます。ライフスタイルの参考にしてください。
- つまずきそうな物は片づける。
- 段差をなくす。
- 階段には、手すりや滑り止めをつける。
- 風呂場には手すりをつけ、湯船の中には滑り止めマットを敷く。
- 暗いところには、足下を照らす明かりをつける。
- 外出時は運動靴がよい。
- 大雨、強風、雪などの日は外出を避け、人混みも避ける。
- 重い物を持ったり、運んだりしない。
これからは外出が楽しくなる季節です。急な転倒などで骨折しないよう、普段から1日3回の片足立ち体操や、牛乳の中にスキムミルクを入れて飲んだりして、カルシウムを増やす生活習慣に心がけてくださいね。