第31回 誤嚥性肺炎に気をつけて (H23.1.23)

新しい年が明けました。今年は卯年。その語源は、進歩のある年とか、草木が生え出す年と言われています。
町中ではインフルエンザやノロウイルスが流行しています。皆さん、くれぐれも外出先から戻られたら、うがいと手洗いをしっかり行ってくださいね。
今年の第1回目は、「誤嚥性肺炎」について皆さんと一緒に勉強したいと思います。

 

1.誤嚥(ごえん)ってなんだろう?
私たちは、普段、何気なく食べ物を食べたり、飲み物を飲んだりしています。
あまり疑問を持たずに、食べたり飲んだりしていますが、もし、「食べたくても舌やのどが思うように動かなくて食べられない、飲み込めない」ということになったらどうでしょうか?
食物や水分を口の中に取り込んで、のどから食道・胃へと送り込むことを嚥下(えんげ)と言います。
そして、病気や年を取ることなどで、これらの過程のどこかがうまくいかなくなり、嚥下困難を引き起こすことを嚥下障害と言います。
また、食物や水分が胃の中に入らず、肺の方へ入り込んでしまうことを、誤嚥と言いますが、これも嚥下障害の怖い症状です。
誤嚥とは、飲食物や唾液が気管から肺の方へ入り込んでしまう現象を言います。
一般に、お茶などを飲んだときにむせることがありますが、「むせる」ことは、気管に入りかかった空気以外の異物を排出しようとする生体の防御反応です。
しかし、気管などの感覚が低下していると、誤嚥していてもむせないことがあります。
それを「むせのない誤嚥(不顕性誤嚥)」と言います。むせないからといって、必ずしも安全ではないのです。
不顕性誤嚥とは、知らず知らずのうちに少量の唾液や胃液を肺に吸引してしまうことを言います。
不顕性誤嚥を起こす原因としては、脳梗塞が最も多いと言われています。
脳梗塞の中には、自分では明らかに発作を起こしたことがなくても、頭のレントゲン(MRI)を撮るとわかりますが、小さな梗塞(ラクナ梗塞)が多発している場合も不顕性誤嚥を起こす原因となります。

 

2.肺炎につながる誤嚥
嚥下障害の原因として、脳卒中(主に脳梗塞)や加齢に伴うもの、心臓疾患に伴うものなどがあります。
お年寄りがいろいろな病気で亡くなられる場合、少なくとも3分の1は肺炎が死因になっています。
そして、すべての肺炎患者の約4分の1が誤嚥が原因で起こる誤嚥性肺炎と言われています。
ご高齢の方は、咀嚼力(そしゃくりょく)の低下、嚥下筋の筋力低下、味覚の低下、注意・集中力の低下などを要因として嚥下機能が低下します。
それに加えて、免疫力が低下することにより、わずかな誤嚥が重篤な肺炎を引き起こすのです。
肺炎の主な症状を以下にまとめます。

① 発熱
最もはっきりしているものは発熱ですが、ご高齢の方では必ずしも高熱を示すわけではなく、重篤な肺炎を思わせない37℃代の発熱のことが少なくありません。
ときには、ほとんど無熱のこともあります。
患者は特別の苦痛を訴えず、「ただ風邪を引いた感じ」、「食欲がない」、「全身がだるい」などが唯一の症状であることも経験されます。
胸痛や激しい咳、そして痰も多くありません。
特に、ご高齢の方は意欲減退、食欲不振を訴えたくらいで急速に意識障害に落ちることもあります。

② 呼吸数の増加
普通に見られる症状としては呼吸数の増加があります。
ご高齢の方が呼吸の数が多くなることは、他の訴えや症状のない場合でもかなり信頼できる肺炎の兆候といえます。

 

3.誤嚥を起こさない食事時の注意

  1. 食べることに意識を集中させ、口の中に食物が入っているときには話しかけないようにします。
  2. ゆっくりとしたペースで食べられるよう、あわてさせない配慮が必要です。
  3. 誤嚥予防のために、食後は1時間くらい横にならないようにします。
  4. 食後や就寝前に、口をゆすいだり歯磨きなどをすることは虫歯や歯周病を予防するだけでなく、肺炎を引き起こす細菌を除去することで肺炎の予防効果が期待できます。しっかりと口をゆすぐか、歯磨きをしましょう。

 

4.誤嚥予防につながる4つのポイント
食べる能力・飲み込む能力・気道のフタを速くしめる能力などを高めて、誤嚥を予防するために行う方法です。
食物や自分の唾液をしっかりと食道に送り込むことができるようになることで、誤嚥性肺炎の予防効果が期待できます。
上記の能力が落ちてきたと感じられる方は、食事の前に合計で10分程度、以下の方法を行うと効果的です。

① パタカラ体操
「パタカラ、パタカラ、パタカラ……」
「パ・タ・カ・ラ」をできるだけ早くはっきりと発音することで、舌や唇のスピードや、巧みさを養います。
「パタカラ」にこだわらず、好きな早口言葉を見つけて練習するのもよいでしょう。あとで、効果的な早口言葉の具体例を紹介します。

② 口や舌の体操
口を大きく開き、舌を前後、左右、上下に20回ずつ動かします。
舌の力や、動く範囲を向上させる訓練です。少々きつく感じる程度がちょうどよいでしょう。慣れてきたら、速く動かすとより効果的です。
口を閉じたまま頬を膨らませたり緩めたりを5回くらいするのもよいでしょう。

③ 唾液腺マッサージ
「耳の下を親指以外の4本の指でもむ」
「あごの下を親指でしっかりと押す」
食物をうまく噛み、しっかりと飲み込むためには、唾液が不可欠です。この体操は、唾液を出す能力を高めるためのマッサージです。食事の前に行うと特に効果的です。

④ 歯と歯ぐきを歯ブラシで磨く
全国の介護施設で行われた研究で、肺炎の死亡率を半減させた歯磨き法です。
毎食後の歯磨きで、歯と一緒に歯ぐきも刺激することで、脳が活性化して、気道のフタのしまりが速くなります。

☆☆「歯と歯ぐきの磨き方」の注意点☆☆

  1. 柔らかめの歯ブラシを使って、力を入れず、優しく小刻みに歯ブラシを動かしてください。
  2. 歯ブラシを当てるのは歯と歯ぐきの境目です。
  3. 歯ぐきだけではなく、舌や上あごなどの口全体を磨くと効果が高まります。
  4. 通常の歯磨きと併せて3分~5分が1回の時間の目安です。
  5. 入れ歯の方の場合でも、歯ぐきや口全体を磨くことで予防の効果が期待できます。その場合、入れ歯をはずして磨いてください。

☆☆効果的な早口言葉☆☆

① パ行
「パンダ、子パンダ、孫パンダ、ひ孫パンダ」
「赤パジャマ、青パジャマ、黄パジャマ」
「カエルぴょこぴょこ三(み)ぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこ六(む)ぴょこぴょこ」

② タ行
「タヌキ、子ダヌキ、孫ダヌキが、ニャンコ、こニャンコ、孫ニャンコに化けた」
「この竹垣に竹立てかけたのは、竹立てかけたかったから竹立てかけた」
「第一著者、第二著者、第三著者」

③ カ行
「青巻紙、赤巻紙、黄巻紙」
「東京都、特許、許可局、局長」
「交響曲、歌曲、協奏曲」

④ ラ行
「狩をする雄ライオン、雌ライオン、子ライオン」
「ラッキボール、ラッキボーイ、ラッキーガール」
「ルネッサンスの流浪(るろう)の作家は、落伍者の烙印(らくいん)を押された」

 

5.誤嚥を疑うチェックリスト
誤嚥につながる主な症状を以下に紹介します。もしも複数の項目に心当たりがある方は、主治医の先生に相談してみてください。

  1. 食事時間が長くなった(1時間以上)。
  2. 最近、体重が落ちた。
  3. 食事中や食後に、むせや咳が多い。
  4. 食べると疲れる、なんとなく元気がない、食欲が低下する。
  5. 食べると声がガラガラになったり、痰の量が増える。
  6. のどに食物残留感がある。
  7. 夜間に咳き込む。

 

6.まとめ
誤嚥は肺炎につながる怖い症状です。
ご高齢の方では、普段から誤嚥を起こさないようなライフスタイルが必要となります。
その中でも、特に重要なポイントは、以下の2つです。

  1. 食後1時間は横にならない。
  2. 食後や就寝前は、必ず口をゆすぐか歯磨きをして口の中を清潔に保つ。
    また、チェックリストで心配だなと思われた方は、是非「4.誤嚥予防につながる4つのポイント」で述べた方法をお試しいただくか、医療機関で肺炎球菌ワクチンの注射を受けることをおすすめします。
    先週は全国的に雪が積もりました。まだ雪や氷が残っている地域もあると思います。
    そんなときは、転倒して骨折を起こすお年寄りが増えますので、外出を極力控えて、下半身の保温に努めてくださいね。

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