第32回 冬場のうつにご用心 (H23.2.27)

皆さん、先月は雪で悩まされた地域も多かったようですが、その後お変わりありませんか?
旧暦の二十四節気で、2月19日は、「冬の氷水が陽気に溶け天に昇り、雨水となって下る」ことで有名な「雨水(うすい)」でした。確実に春は近づいてきています。
でも、一難去ってまた一難! これからは花粉症に悩まされそうです。今のうちから、しっかり対策を考えておいてくださいね。
今回は、冬場に増える「うつ」について、皆さんと一緒に勉強したいと思います。

 

1.うつ病って何だろう?
うつ病は『心の風邪』と言われるように、決して珍しい病気ではありません。
現在でこそ一般にも広く知れ渡っている病気ですが、以前までは充分な理解が得られず「怠け病」などと呼ばれていました。
日本の国民人口当たりの出現率は、5%前後にも上ります。
あまり生活に支障をきたさないような軽症例から、自殺を企てるような重症例まで広く存在します。
うつ病を反復する症例では、20年間の経過観察で自殺率が10%程度とされています。
なお、男女比では、男性より女性の方が2倍程うつ病になりやすいとされています。
うつ病のタイプには、次のようなものがあります。

① メランコリー親和型うつ病(通常のうつ病)
気分が落ち込む状態が長期に渡って持続していて、何をやっても気分が明るくならないタイプです。

② 非定型うつ病
基本的に、気分が落ち込む状態が持続していますが、好きなことをしている時などには気分が明るくなるようなタイプのうつ病です。
うつ病の半分程度は非定型とされています。

③ 新型うつ病
自責感が強い従来のうつ病と対照的に、他罰的意識(周囲のせいで自分が理不尽な目に遭っているなど)が強く、趣味活動などには積極的になれますが、職場などストレスを感じる場面でのみで激しく気分が落ち込むようなタイプです。
これは、30代ぐらいの若い世代で増えています。

【東洋医学コーナー】
東洋医学では、うつ状態のことを「肝気抑うつ」と呼んでいます。
この状態が長く持続すると、「肝脾不和(かんひふわ)」という状態になり、食欲不振や便秘などの消化器系の症状が現れてきます。
「肝脾不和」とは、肝の働き(全身を巡る気や血の流れをスムーズにするなど)が障害されることで、脾の働き(消化・吸収を促すなど)が悪くなる状態です。

 

2.うつ病の診断は?
気分がふさいで憂うつな状態(うつ状態)を示すからといって、うつ病であるとは限りません。うつ状態は、次のような原因によって引き起こされます。

① 一過性の心理的なストレスに起因するもの(心因性うつや適応障害など)
精神的なストレスから起こるものですが、この場合、原因から遠ざかれば一晩で元気になる可能性があります。

② 季節や生体リズムなど、身体の内部の変調によって生じるもの(内因性うつ)
はっきりとした原因はわかっていませんが、セロトニンなどの脳内物質の変調により現れるとされています。

③ 自律神経失調症やパニック障害など、他の疾患の症状として現れるもの
他に脳卒中、パーキンソン病、関節リウマチ、内分泌疾患など、多くの病気からうつ状態となることがあります。
こうした様々なうつ状態のうち、臨床場面でうつ病として扱われるのは、両親などとの死別反応以外のもので、2週間以上に渡り毎日続き、生活の機能障害を呈しているという、ある程度の重症度を呈するものです。
一方、うつ病にかかりやすいタイプや性格も発病に関係していると言われています。
社交的で親切、明朗で活発、物静かで気弱、几帳面、仕事熱心、強い義務感、徹底に物事を行うタイプ、正直でモラルを重んじる、生真面目、献身的、自己要求水準が高い人など。
こうして羅列すればするほど、どこにでもいるタイプの人だということが分かります。
真面目で仕事熱心なタイプ、ナイーブで神経質、物静かで心優しい、そんな人はいくらでもいます。こうした人々が、過労や心理的ストレス、女性であれば出産、月経、その他にも様々な種類のストレスにさらされた時、うつ病が発病する危険性が高まるのです。

 

3.うつ病の症状は?
うつ病の症状は、2つの主要な精神症状が基本となります。
それは「抑うつ気分」と、「興味・喜びの喪失」です。それに前後して、様々な身体的症状も現れてきます。

① 精神症状
「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどです。
「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見い出せず、感情が麻痺したような状態です。
この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断する上で必須の症状とされています。
これら主要症状に加えて、「抑うつ気分」と類似した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・希死念慮」、「パニック障害」などがあります。
また、ボーっとすることが多くなり、口数が少なくなる。学校・会社・部活動では、休みがちになったり、不登校になる。脳が萎縮することで集中力がなくなり、運動神経や記憶力が低下し、勉強ができなくなったり、人の話を聞かなくなるなどの症状も現れてきます。

② 身体的症状
訴えとしては「食欲がなく体重も減り、眠れなくて、いらいらして頭痛もあり、じっとしていられない」、もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」などが、精神症状に前後してあらわれます。

③ その他
自己中心的な行動が増えることで、対人関係が悪化し、さらに病気を悪化させるという悪循環が起きやすくなります。

 

4.うつ病の治療方法は?
うつ病では、6ヶ月程度の治療で回復する症例が60%ないし70%程度であるとされ、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復すると言われています。
しかし、一方では25%程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではありません。
また、一度回復した後は再発しない症例がある反面、再度うつ病を繰り返す症例もあります。
このように、様々な経過をとる可能性があることは認識しておく必要があります。

① 治療の基本方針

ア.心理的ストレスに起因しない内因性うつ病の場合
基本的に、まずうつが病気であることを本人や家族が納得し、「無理をせず、養生して、(場合によっては)薬を飲んで、回復を待つ」ことが必要となります。
内因性うつ病の症状は、”気の持ちよう”や、”努力”などで変えられるものではありません。
変えられないものを、変えようと無理をすればするほど、症状を悪化させます。
むしろ、変えようとするのではなく、憂うつな気分に逆らわず、充分な休養を取りながら、回復を待つべきです。
うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがあります。
病気のため、「もう治らない」としか考えられなくなったりもします。
しかし、うつ病はいかに重症でも、いつかは改善するものです。
なので、「いつかは良くなる」という希望を持つことが大切です。
家族など、周囲の人たちも長い目でうつ病を抱えた患者さんを見守ることが求められます。
「がんばれ」や「さぼるな」と言う言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなります。
そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限りません。
患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないで見守ることが必要です。
「気の持ちようではないか」や、「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではありません。
うつ病でなくとも、嫌なことが起きれば、嫌な気分になるし、そういった一過性の軽い抑うつ気分は多くの人が経験します。
長期間に及ぶようなつらいうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめることになるのです。

イ.心理的ストレスに起因すると思われる心因性うつ病の場合
心理的ストレスに起因すると思われるうつ病では、原因となったストレスの解決や、ストレス状況から離れることなどの原因に対する対応が必要となります。
なお、一人一人の患者においては、心理的ストレスが原因と考えるべきものなのかどうかの判断は、かなり難しくなります。
そのため、この判断は心療内科医や、精神科医の助言に従うのが良いと思われます。

② 具体的な治療法

ア.薬物療法
うつ病に対しては、抗うつ薬の有効性が臨床的にも科学的にも実証されています。ただし、抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1週間、ないし3週間の継続的服用が必要となります。このことをしっかりと理解して、服薬する必要があります。

イ.認知行動療法
心療内科などで行われているもので、周囲に対する考え方を変えることにより、感情や気分をコントロールしようという治療法です。
抑うつの背後にある考え方のゆがみを自覚させ、合理的で自己擁護的な考え方へと導くことを目的としています。

ウ.光療法
強い光(太陽光あるいは人工光)を浴びる治療法です。
従来から、過食や過眠が多くなる、冬型の「季節性うつ病」に効果があると言われてきました。しかし、最近の研究で光療法が季節性以外のうつ病の治療にも有効であることが分かってきました。

エ.運動療法
ウォーキングなど、有酸素運動の有効性が学会で指摘されています。入院時の日課とする病院もあります。

 

5.うつ病に関する法律を紹介します
精神障害者の通院医療費公費負担制度(精神保健福祉法第32条)という、うつ病患者の間では有名な法律があります。
これは、患者の自己負担額が医療費の5%に減額される法律です。
年齢制限、所得による制限、受診期間による制限などはありません。

 

6.まとめ
うつ病は、治る病気です。まず、それを自覚することが大切です。
生活習慣の乱れによっても、うつ状態になりやすくなります。
少しでも、自分がうつ状態であると感じたら、「栄養のバランスを考えた食事」に気を配り、「太陽の光」を浴びて、「毎日うっすらと汗をかく程度のウォーキング」をするような生活に心がけてください。
また、「丹田(たんでん)呼吸法」と言って、深く長い呼吸をすることが、人間の精神の興奮状態を和らげる効果につながると言われています。以下にその方法を紹介しますので、時間を見つけて毎日1回は行ってみてください。

  1. 3秒間かけて空気を吸う。
  2. 2秒間空気を吸った状態を保つ。
  3. 15秒以上の時間をかけて、その空気を細く長い息を使って吐き出す。「ひとつ、ふたつ」と数を数えながら吐きだしてみるのもいいですよ。
  4. 一度行った後に一旦休憩する。しばらくしてから5回繰り返す。
    必ず、うつ状態から解放され、楽しい気分が戻ってきますよ。

さて、これからは「三寒四温」で落ち着かない気候になっていきます。この時期が、最も体調を崩しやすくなると言われています。
くれぐれも皆さん、冷たい飲食を遠ざけ、そして下半身を温めながら快適な毎日をお過ごしくださいね。

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