第42回「認知症を理解する その1」(平成24年5月27日)
東洋医学って何だろう? その42
~ 認知症を理解する その1「原因とその症状は?」 ~
平成24年5月27日(日)
とても過ごしやすい季節になりましたね。皆さん、お変わりありませんか? 私は、6月の梅雨入りをする前のこの時期がとても大好きです。是非、皆さんも外に出て、身体を動かしてみてくださいね。
今月と来月の2回に分けて、我が国をはじめ、世界的にも今大きな社会問題になっている「認知症」について、皆さんと一緒に勉強したいと思います。
まず今回は、認知症の原因と、その症状の特徴についてのお話をさせていただきます。
1.認知症って何だろう?
脳は、私たちのあらゆる活動をコントロールしている司令塔です。
それがうまく働かなければ、心も身体もスムーズに働かなくなります。
認知症とは、いろいろな原因で脳の一部の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために、様々な障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)を指します。
一旦、脳の一部の細胞が死んでしまうと、もう二度とその細胞は元にはもどりません。残りの細胞で、生活していかなければならなくなります。
死んでしまった細胞が多ければ多いほど、その症状は重症となっていきます。
認知症を引き起こす病気のうち、もっとも多いのは、脳の細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー小体病などがこの「変性疾患」にあたります。
続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、脳の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果、その部分の細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。
【東洋医学コーナー】
東洋医学の考え方の一つに、「未病治(みびょうち)」という言葉があります。
これは、病気になる前に治してしまおうというものです。つまり、予防医学です。
認知症は生活習慣病の一つです。
バランスの取れた食事や適度な運動などは、未病治を実践するという点で、とても大切なことだといえます。
2.認知症の症状 ~ 中核症状と周辺症状
脳の細胞が壊れることによって、直接起こる症状が「記憶障害」、「見当識(けんとうしき)障害」、「理解・判断力の低下」、「実行機能の低下」、そして「感情表現の変化」など、中核症状と呼ばれるものです。
これらの中核症状のため、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
また、本人がもともと持っている性格、環境、人間関係など、様々な要因がからみ合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。これらを周辺症状と呼ぶことがあります。
この他、認知症にはその原因となる病気によって多少の違いはあるものの、様々な身体的な症状も出てきます。特に、血管性認知症の一部では、早い時期から麻痺などの身体症状が合併することもあります。アルツハイマー型認知症でも、進行すると歩行がうまくできなくなり、終末期まで進行すれば、寝たきりになってしまう人も少なくありません。
3.中核症状 ~ 5つの特徴
認知症の特徴的な症状を5つに分けて説明します。
① 記憶障害
人間には、目や耳が捕らえたたくさんの情報の中から、関心のあるものを一時的に捕らえておく器官である「海馬(かいば)」(仮に「イソギンチャクの足」と呼ぶ)と、重要な情報を頭の中に長期に保存する「記憶の箱」が脳の中にあると考えてください。
一旦、「記憶の箱」に入ってしまえば、普段は思い出さなくても、必要なときに必要な情報を取り出すことができます。
しかし、年をとるとイソギンチャクの足の力が衰え、一度にたくさんの情報を捕えておくことができなくなり、捕えても、「箱」に移すのに手間取るようになります。
「箱」の中から必要な情報を探し出すことも、ときどき失敗します。年をとってもの覚えが悪くなったり、ど忘れが増えるのはこのためです。
それでもイソギンチャクの足はそれなりに機能しているので、二度三度と繰り返しているうち、大事な情報は「箱」に納まります。
ところが、認知症になるとイソギンチャクの足が病的に衰えてしまうため、「箱」に納めることができなくなります。
新しいことを記憶できずに、先ほど聞いたことさえ思い出せないのです。更に、病気が進行すれば、「箱」が溶け始め、覚えていたはずの記憶も失われていきます。
② 見当識障害
見当識とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど、基本的な状況を把握することをいいます。
この見当識障害は、記憶障害と並んで早くから現われる障害です。
ア.まず、時間や季節感の感覚が薄れる
時間に関する見当識が薄らぐと、長時間待つとか、予定に合わせて準備することができなくなります。
何回も念を押しておいても、外出の時刻に準備ができなかったりします。
もう少し進むと、時間感覚だけでなく、日付や季節、年次におよび、何回も「今日は何日か?」と質問する、季節感のない衣服を着る、自分の年がわからないなどが起こります。
ある程度進行すると、迷子になったり、遠くに歩いて行こうとするようになります。初めは方向感覚が薄らいでも、周囲の景色をヒントに道を間違えないで歩くことができますが、暗くてヒントがなくなると迷子になります。
更に進行すると、近所で迷子になったり、夜、自宅のお手洗いの場所がわからなくなったりします。また、とうてい歩いて行けそうにない距離を歩いて出かけようとします。
イ .人間関係の見当識はかなり進行してから
過去に獲得した記憶を失うという症状まで進行すると、自分の年齢や人の生死に関する記憶がなくなり周囲の人との関係がわからなくなります。80歳の人が、30歳代以降の記憶が薄れてしまい、50歳の娘に対し、「姉さん」、「叔母さん」と呼んで家族を混乱させます。
また、とっくに亡くなった母親が心配しているからと、遠く離れた郷里の実家に歩いて帰ろうとすることもあります。
③ 理解・判断力の障害
認知症になると、ものを考えることにも障害が起こります。具体的な現象では、次の変化が起こります。
ア.考えるスピードが遅くなる
逆の見方をするなら、時間をかければ自分なりの結論に至ることができます。急がせないことが大切です。
イ.二つ以上のことが重なるとうまく処理できなくなる
一度に処理できる情報の量が減ります。念を押そうと思って、長々と説明すると、ますます混乱します。必要な話はシンプルに表現することが重要です。
ウ.些細な変化や、いつもと違うできごとで混乱を来しやすくなる
お葬式での不自然な行動や、夫の入院で混乱してしまったことをきっかけに、認知症が発覚する場合があります。
しかし、予想外のことが起こったとき、補い守ってくれる人がいれば、日常生活は継続できます。
エ.観念的な事柄と、現実的、具体的なことがらが結びつかなくなる
「糖尿病だから食べ過ぎはいけない」ということはわかっているのに、目の前のおまんじゅうを食べてよいのかどうか判断できない。「倹約は大切」と言いながら、セールスマンの口車にのって、高価な羽布団を何組も買ってしまうということが起こります。
また、目に見えないメカニズムが理解できなくなるので、自動販売機や交通機関の自動改札、銀行のATMなどの前では、まごまごしてしまいます。
全自動の洗濯機、火が目に見えないIHクッカーなどもうまく使えなくなります。
④ 実行機能障害
ア.計画を立て按配することができなくなる
スーパーマーケットで大根を見て、健康な人は冷蔵庫にあった油揚げと一緒にみそ汁を作ろうと考えます。認知症になると、冷蔵庫の油揚げのことはすっかり忘れて、大根と一緒に油揚げを買ってしまいます。
ところが、後になっていざ夕食の準備にとりかかると、さっき買ってきた大根も油揚げも頭から消えています。冷蔵庫を開けて目に入った別の野菜でみそ汁を作り、冷蔵庫に油揚げが二つと大根が残ります。
こういうことが幾度となく起こり、冷蔵庫には同じ食材が並びます。認知症の人にとっては、ご飯を炊き、同時進行でおかずを作るのは至難の業なんです。
イ.保たれている能力を活用する支援
でも、認知症の人は「なにもできない」わけではありません。献立を考えたり、料理を平行して進めることはうまくできませんが、誰かが全体に目を配りつつ、按配をすれば一つ一つの調理の作業は上手にできます。「今日のみそ汁は、大根と油揚げだよね」の一言で油揚げが冷蔵庫にたまることはありません。「炊飯器のスイッチはそろそろ入れた方がいいかな?」と聞いてくれる人がいれば、今まで通り、食事の準備ができます。こういう援助は根気がいるし疲れますが、認知症の人にとっては必要な支援です。
こうした手助けをしてくれる人がいれば、その先は自分でできるということがたくさんあります。
⑤ 感情表現の変化
認知症になるとその場の状況が読めなくなります。
通常、自分の感情を表現した場合の周囲の人の反応は想像がつきます。私たちが育ってきた文化や環境、周囲の個性を学習して記憶しているからです。更に、相手が知っている人なら、かなり確実に予測できます。
認知症の人は、ときとして周囲の人が予測しない、思いがけない感情の反応を示します。それは認知症による記憶障害や見当識障害、理解・判断の障害のため、周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなっているからです。
たとえば「そんな馬鹿な!」という言葉を、その場の状況を読めずに自分が「馬鹿」と言われたと解釈した認知症の人にストレートに怒りの感情をぶつけられたら、怒られた人は、びっくりしてしまいます。
認知症の人の行動がわかっていれば、少なくとも本人にとっては不自然な感情表現ではないことが理解できます。
4.まとめ
我が国の人口に占める65歳以上のお年寄りの割合を高齢化率と呼んでいます。
私が生まれた昭和30年頃の高齢化率は、わずか5%程度に過ぎませんでした。
しかし、平成23年9月15日現在で、我が国の高齢化率は23.3%で、世界でもまれに見るお年寄りの多い社会(超高齢社会)となっています。
更に将来を予想すると、平成67年には、なんと40.5%にも達すると言われています。
このように見ていくと、認知症はなるべく多くの人たちが身近なものとして考え、そしてその特徴を理解していかなければならない病気の一つだといえます。
今回の資料は、厚生労働省:政策レポート(認知症を理解する)から引用させていただきました。
認知症は、早期に発見して、適切な対応を取れば、その症状の進行を遅らせたり、ある程度の回復へとつなげる効果があります。
次回は、認知症の自己チェックとその予防法についてのお話をさせていただきますのでお楽しみに。