第43回「認知症を理解する その2」(平成24年6月24日)
「自己チェックの方法とその予防法は?」 ~
平成24年6月24日(日)
6月8日に東海地方は梅雨入りしました。農作物にとっては恵みの雨ですが、私たちにとっては辛い時期ですね。
梅雨の後半は蒸し暑くなりますが、前半は、まだ冷えが残ります。皆さんくれぐれも足下の保温に努めてくださいね。
さて、前回に引き続き、今回も認知症について皆さんと一緒に勉強したいと思います。
今回は、「自己チェックの方法とその予防法」についてのお話です。
1.認知症チェックリスト
今から3年程前と比較して、次のような症状がよく見られるようになっていないか、または次のような症状のために、日常生活に支障をきたしていないかチェックしてみてください。
該当する項目が多い人は、あとで説明する「もの忘れ外来」での相談をおすすめします。
① 今日の日付が思い出せない
② 通い慣れた道なのに迷うことがある
③ 使い慣れているはずの道具の使い方が思い出せない
④ 簡単な計算に手間取ったり、間違えたりする
⑤ 親しい人との付き合いが減り、外出しなくなる
⑥ 料理や洗濯など、段取りが必要なことができない
⑦ 鍋を焦がしたり、ガスの火を消し忘れる
⑧ 知っているはずの物の名前や、言葉がうまく出てこない
⑨ イライラしたり、不安が強くなるなど、情緒が不安定
⑩ 前に買ったことを忘れ、同じ物を何度も買ってしまう
⑪ 同じことを何度も尋ねたり、話したりする
⑫ お風呂に入るのを嫌がり、身だしなみがだらしなくなる
⑬ 置き忘れや、しまい忘れが目立つ
⑭ 待ち合わせの時間や、場所をよく間違える
⑮ 趣味や楽しみに対する関心がなくなる
2.認知症を予防しよう! ~ 運動と食事が決め手
① 毎日、適度な運動をしよう!
散歩やウォーキングなど、中強度の運動を10分間行っただけでも、脳の認知機能を高める効果があることを、筑波大学の征矢英昭教授等の研究チームが明らかにしました。
適度な運動をすると頭がスッキリして、仕事がはかどると実感する人は多いとよく言われています。
研究では、短時間の適度な運動が脳の認知機能を向上させる仕組みを脳科学的に解明しました。
ウォーキングは、何よりも、イソギンチャクの足である海馬が小さくなるのを抑えるだけでなく、逆に大きくする効果があります。
② 毎日水分をしっかり取ろう!
一般の人では、毎日1.5リットルの水分補給が必要だと言われています。高齢者の場合、水分摂取は1日に1.3リットルでも大丈夫だという節もありますが、この点の改善に取り組むとだいたい3ヶ月くらいで認知症の症状の改善が見られる場合が多いと言われています。
③ 背中の青い魚を食べよう!
青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を毎日食べ続けることで、認知症予防に効果があることを、島根大医学部橋本道男准教授(脂質栄養学)のグループが実証しました。
④ ビタミンDを積極的に摂取しよう!
ビタミンDが欠乏している高齢者は、ビタミンDが必要量取れている高齢者に比べて認知機能の低下が速いことが、イギリスのExeter大学のDavid J. lewellyn氏等の研究で明らかになりました。
ビタミンDは魚類やキノコ類などに多く含まれます。例えば、きくらげ、干ししいたけ、ウナギ、カジキマグロ、卵、サケ、イクラ、サンマ、シラス干しなどがあります。
⑤ 毎日、卵や大豆食品を摂取しよう!
コリンの中でも、卵や大豆に含まれているリン脂質の一種であるホスファチジルコリンという物質だけは、腸の内部で最近によって分解されることがありません。
ホスファチジルコリンによってコリン濃度が上がった血液は、そのまま脳に運ばれ、脳内に運ばれたホスファチジルコリンは神経細胞内において、アセチルコリン合成酵素によって神経伝達物質のアセチルコリンとなります。
さらにこの合成作業の際、ビタミンB12が加われば、さらに酵素の働きが活性化され、効率よくアセチルコリンが脳内で合成できることも分かっています。
⑥ 毎日ビタミンB12を含む食品を積極的に摂取しよう!
以前、「一日あたりコップ2杯の牛乳を飲めば、アルツハイマー病の進行を遅らせることができる」と言う発表をした研究が、イギリスでは話題になりました。
牛乳に入っているビタミンB12という成分がキーワードで、この摂取量を増やせば認知機能の低下を防ぐことができるのではないか?ということで現在も研究が進んでいます。
これを発表したオックスフォード・プロジェクトのデビッド・スミス教授によれば、ビタミンB12欠乏症の高齢者は脳萎縮を起こす確率が2倍高いと話しています。
⑦ 亜鉛を含む食品を多く摂取しよう!
海馬には高濃度で亜鉛が含まれています。すなわち、海馬の働きには亜鉛が必要なのです。
魚貝類のカキに亜鉛が多く含まれていることは有名です。その他、にぼし、米ぬか、牛乳、種実類、ココアなどにも亜鉛が含まれています。
⑧ ローズマリーのアロマオイルに認知症予防効果があることを発見!
岩手大学の研究チームが、ローズマリー中のカルノシン酸という成分に、脳の細胞を酸化ストレスや興奮毒性から守る作用があることをつきとめたそうです。
脳の神経細胞が徐々に死滅するマウスに、カルノシン酸を注射すると、死滅する神経細胞の数が少なくなったというのです。今後の研究に期待しましょう。
【東洋医学コーナー】
東洋医学の考え方の一つに、「未病治(みびょうち)」という言葉があります。
これは、病気になる前に治してしまおうというものです。つまり、予防医学です。
認知症は生活習慣病の一つです。
適度な運動やバランスの取れた食事などは、未病治を実践するという点で、とても大切なことだといえます。
3.「もの忘れ外来」の紹介
最近、全国で増えている「もの忘れ外来」は、認知症専門の外来です。
医学の進歩により、認知症も症状の悪化を遅らせたり、回復につなげることができるようになりました。
そこで、岐阜県内で「もの忘れ外来」を所有する医療機関を紹介しますので、心配な方は、是非相談してみてくださいね。
平林クリニック 岐阜県岐阜市菊地町2丁目41
℡ 058-274-9600
山田メディカルクリニック 岐阜県岐阜市東金宝町1-12
℡ 058-265-1411
東海中央病院 岐阜県各務原市蘇原東島町4-6-2
℡ 058-382-3101
博愛会病院 岐阜県不破郡垂井町2210-42
℡ 0584-23-1251
木沢記念病院 岐阜県美濃加茂市古井町下古井590
℡ 0574-25-2181
岐阜健康管理センター 岐阜県美濃加茂市西町1-292
℡ 0574-25-2982
市立恵那病院 岐阜県恵那市大井町2725番地
℡ 0573-26-2121
4.患者さんの気持ちに寄り添う介護とは?
『認知症患者さんの気持ちに寄り添う介護』をすることで、認知症に伴う問題行動(妄想、徘徊(はいかい)、幻覚、暴言など)が半分以上も減少すると言われています。
どういうことかというと、介護者がよかれと思ってしたことでも、認知症患者さんがイライラを引き起こすことが案外多いと言われています。
それは、介護のときに自分の欲求を断られたという不快な感情を抱いた場合、その際のいきさつは忘れてしまうのですが、不快感という感情だけはしっかりと記憶に残って覚えているのです。
そして、その感情が何度も積み重なることで、一気に爆発し、介護拒否の行動や、暴言などの問題行動となって現れるのです。
ここで大切なことは、介護を受ける過程で、感情を伴った記憶は忘れないということです。
たとえば、兄弟が住む隣町に行きたいという欲求を、何度も様々な理由で断られ続けると、隣町のことは忘れても、”邪魔された”という感情に関する記憶だけは残り、それが積み重なっていくわけです。
この弊害をなくすには、本人の望みをやみくもに否定したり説得をしようとせず、本人の望みを少しずつ聞いてあげることが大切なんです。
一人でやりたいということは、できるだけやらせてあげるようにする。そうすることで、認知症の諸症状は大きく改善されるのです。
また、笑顔で接することも大切です。介護者に笑顔がないと患者さんは不安を覚えてしまいます。
介護をする上で、大切なポイントを以下にまとめます。
① 優しい目で挨拶をする。
② 認知症患者さんの言葉と同じ言葉を繰り返す。
③ 思い出話をする。
④ やさしく身体に触れる。
特に患者さんが言う無理難題の言葉でも、否定せずに、同じ言葉を使って問い返していると、やがて落ち着きが出て、感情を表に出すようになり、興奮やイライラなどが半分以下になると言われています。
5.まとめ
読売新聞の平成22年3月6日付けの健康欄に、車の運転と認知症についてのトピックが掲載されていました。
その中で、認知症一般としての『初期症状が出始めの時期の予防法』が書かれていましたのでご紹介します。
① 日記を継続的に書き、「その日あった出来事を思い出す」行為を意識的に毎日行う。
② 料理と洗い物、あるいは洗濯と掃除など、複数の作業を同時に進める。
最近、もの忘れが気になっている方は、上記のどちらか一方だけでも毎日実践されることをおすすめします。
私も、人の名前が思い出せないことがよくあります。そのような自分にとって、この原稿作りは、いい脳トレーニングになっていると思って感謝しています。
皆さんも、どのようなことでもいいので脳のトレーニングにつながる行為を生活の中に取り入れて、脳のリフレッシュにつなげていってくださいね。